鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2018年度 バックナンバー

VOL.153 労働時間の大転換

政府は2027年には時間外労働を行う場合でも月間45時間、年間360時間以内となることを目指しています。

つまり、現在許されている「特別条項」なるものを撤廃する予定です。

国会で成立した働き方改革関連法では、現行法では「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」とあるのに対し、改正法では「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に通常予見することのできない業務量の大幅な増加等の限度を超えて労働させる必要がある場合」となっています。

つまり、改正法では「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」でしか、特別条項は認めないことになりました。

たとえば、アイスクリーム製造会社で、5、6、7月が毎年、超繁忙期、売上の大半がこの期間に製造された製品で成り立っているとします。

しかし、これらの事情は「当然に毎年予見されている」のだから、特別条項の締結は認められないことになります。

行政や司法は現実的にどのように判断・運用するのかはさておき、立法上は特別条項を「殺した」にも等しい改正が行われたといえます。

これから7~8年以内に労働時間の分野は大きく転換していきます。

まず、現段階で特別条項付の36協定を締結しているにもかかわらず、ビジネスモデル上、遵守できていない会社は、あと5年もすればもうやっていけなくなります。

これに関連する法改正もまさに着々と進んでいます。

政府は財政再建のプライマリーバランスゼロなどの対策は、お題目だけで何度も先送りしています。

しかし、働き方改革関連分野は現実的に誠に力強いスピードで推進しています。

働き方改革とは再編・淘汰を促す改革です。

できない会社は潰れてもいい、若手を中心に働く者もそう思い始めています。

資産と売上をバランスさせ、回転を上げる、売上と費用をバランスさせ、収益をあげる、その前提として、労働時間をバランスさせないと先はなくなりました。

VOL.152 働き方改革では社員のやる気に頼る経営が最も危ない

若年労働力不足、人口減少・総需要減少、超高齢化高負担、若手の価値観の変化が、もう従来の労務管理制度を機能不全にしていくと思われます。

従来の労務管理制度とは、帰属意識、忠誠心、精神主義、信頼関係をベースとしたものです。

昭和から平成一桁までは「精神主義」「曖昧主義」「協調主義」はまだ通用しました。

しかし、「自分の時間を大切したい」「給与決定の明確な説明がほしい」「職務内容を明確にしてほしい」「男性も育児休業をとりたい」若手社員には全く魅力のない古臭い会社に映ります。

その「若手」たちが会社の多数派になっていきます。

政府の主導する長時間労働是正、有給消化率向上、同一労働同一賃金など欧米の労務管理に近づける政策は、若手に極めてウケがいい。

若手の価値観は欧米人に近づいています。

社員のやる気の向上のために、給与制度や評価制度をいじくる、長期的についてきてくれたら悪いようにしない、飲み食いをして一体感を高める等の生産性を向上させる手法は無理な段階に来ました。

つまり、もう精神性・協調性を強みにする、日本の独自の経営スタイルでは戦えません。

有給休暇は全部消化し、原則残業はなく、職務内容や目標が明確、明瞭な処遇制度、ワークライフバランス等、これを前提にした事業でないとやっていけなくなります。

ヤマト宅急便の例を出すまでもなく、値上げができる商品サービスに絞り込み、それを評価してくれる顧客を絞り込み、たとえ売上が下がったとしても、不得意で効率の悪い仕事を排除し、労働生産性を向上させ粗利を増やす。

その結果、ワークライフバランスを実現しながら、一人当たり粗利益を上げていきます。

ダメなパターンは、構造改革に踏み切らず、人が足りないから人を増やして、精神主義でやる気を高め、売上げを上げようとすることです。

いよいよ日本の労務管理がグローバルスタンダードに叩きのめされようとしているということです。

VOL.151 格差不合理・再雇用格差に最高裁判決

2018年6月1日に最高裁において、今後の賃金体系を考えるうえで注目すべき重要な判決が言い渡されました。

格差不合理手当については皆勤手当・通勤手当・精勤手当・無事故手当・作業手当・給食手当について格差が不合理であるとされました。

労働契約法第20条は正社員と非正規社員の待遇格差が不合理であってはならないとされています。

不合理性は、[1]職務の内容、[2]転勤・昇進などの配置の変更範囲、[3]その他の事情から判断することになっています。

最高裁は諸手当を一つひとつ取り上げ、「賃金項目の趣旨を個別に考慮する」方法を採用しました。

逆にいえば、「基本給」は最高裁も踏み込めない部分であるといえます。

日本の基本給は年齢・勤続・経験等さまざまな要素が混在して決定されている経緯があります。

再雇用格差については容認しています。最高裁は、定年退職後の再雇用等で仕事の内容が変わらなくても、給与や手当の一部・賞与を支給しないなどの待遇に差が出る事自体は不合理ではないと判断しました。

ただし、「精勤手当」を再雇用者(嘱託社員)に支給しないのは不合理で違法と判断しました。

賃金体系を構築するときには以下の点に注意することが必要といえます。

[1]賃金総額が合理的であっても、諸手当の額、手当の支給要件、支給の有無等の格差の合理性が問われているため、正社員の手当をなくす、非正規社員の手当を創設するなどの、諸手当の抜本見直しが必要となる。

[2]定年再雇用での賃下げは有効と認められたので、従来通りのスタンスで再雇用者の総額を決定する(ただし、その場合でも[1]には注意する)。

[3]最高裁では諸手当のつけ方に教訓をもたらしたが、同一労働同一賃金関連法案で、諸手当の他にも基本給・昇給・賞与等についても格差説明の義務が課せられている。

したがって、説明ができないと違法となるリスクがあるため、説明可能な賃金制度にしておくことが肝要です。

VOL.150 パワハラへの対応

最近、中小企業において、「これはパワハラだ!」という声が頻繁にあがっています。

重大なミス、それも一歩間違えれば命を落としかねないミスを起こした者に対して、きつく叱ることは当然です。

ミス等の程度ももちろんパワハラの認定で勘案されます。

業種によれば、「一歩間違えれば命を落とす」ということもあり、誤解も含めてパワハラだといわれてしまう頻度が高くなる場合もあります。

しかし、「よくもここまで」といえるほど裁判例などを紐解くと克明に上司の発言内容が出てくる場合があります。多くは携帯電話やICレコーダーで録音されています。

パワハラか否かは、その「ストーリー」「文脈」によって判断されるべきで、断片的に判断されないものですが、証拠価値は大きくなります。

本人の日記、メモ、家族や友人に送ったメールなどから、間接的に推認されることになります。

会社は、職場環境について労働者の健康を害さないよう、人格の尊厳を傷つけられないように適切に保つ注意義務があります。

会社として、パワハラ・いじめを放置した場合には、安全配慮義務違反として、損害賠償義務を負う可能性があります。

特に近年では、会社の安全配慮義務が厳格に解釈。「知らなかった」「聞いていなかった」という弁明が通用しないケースが多くあります。

簡単に「パワハラだ!」と言われる時代に会社として取るべき制度等があります。

それは以下のようなもので、

[1]職場においてパワハラに対しては厳正に対処するという方針を明確に打ち出し、各労働者に周知・啓発する。

[2]「相談窓口」をあらかじめ設置し、「適切柔軟に対応できるような体制を整備。

[3]パワハラが生じた場合において、その事案に関する事実関係を迅速かつ正確に把握し、適切に対処する。

前記の制度・システムがないこと自体が、安全配慮義務違反と評価されるリスクがあります。

逆にいえば、これらの制度・システムの整備はパワハラを防止するのに有効であるばかりか、事案が生じたときに会社を守る抗弁になります。

VOL.149 中小企業の昇給

マスコミ報道で「大手企業でベースアップ、前年越えが相次いでいる。」との報道があります。また、政府は「3%賃上げ」を求めています。この「賃上げ」について、私は大手企業と中小企業で意味が異なっていると思います。

大手企業の賃上げとは「賃上げ=ベースアップ+定期昇給」であり、これに対して中小企業は「賃上げ=定期昇給+調整昇給」ととらえるのが正解です。

中小企業はそもそも賃金表(テーブル)を持っていないことが多く、賃金表そのものを書き換えて全体を底上げするベースアップというのはなじみません。実態としてベースアップと定期昇給の区別がありません。

この「調整昇給」とは何か?こんな言葉は一般的ではなく、私の造語です。

昇給には3つあります。[1]定期昇給、[2]昇格昇給、そして、[3]「調整昇給」です。

調整昇給は定期昇給では追いつかない「万単位」の大幅昇給です。若手の採用難・定着難のいま、中小企業のいまこの「調整昇給」が求められています。

たとえば、A君は22歳で入社して32歳の社員は定期昇給が行われ、基本給26万円であったとする。

一方、B君は29歳で入社して32歳の社員の基本給は22万円であったとする。

中小企業は後者のB君のような社員の方が一般的であったりします。このような場合、3年経過して、一定の評価がなされたら、思い切ってB君に対して「調整昇給」を行うことをおすすめします。評価がよい場合 定期昇給6000円+是正昇給14000円=2万円などを実行する。

中小企業は中途入社・中途退社が多いので、賃金表に基づいた予定調和の昇給ではなく、もっとダイナミックでかつタイムリーな「調整昇給」を行うことが優秀な人材の定着につながります。中小企業はベースアップを行う原資がなかなかとれません。それは定期昇給に加えて、調整昇給を行わなければならないからです。昨今の特に若手の売り手市場下においては、いかに上手な「是正昇給」を行うかが経営の競争力を決めると思います。

VOL.148 働き方改革で利益が吹き飛ぶ?

働き方改革、政治的には否定しようがなく、聞こえがいい「美名」だが、特に小売・サービス・建設業等にとっては、単なるコストアップにしかなりません。

悲鳴にも似たご相談があります。それは、「若手の離職が止まらない」というご相談です。働き方改革に若干遅れをとってしまっている企業は特にそうだと思います。

ネットの就職情報サイトには「ブラック企業」「就職しないほうがよい」「退職者が多すぎて内部が崩壊」等、企業規模に比しては多くの書き込みがあります。年収ベースではそれほど悪くはありませんが、長時間労働・休日出勤が多く、管理職がパリっとしていない、そんな状況が目に付きます。出勤簿に押印するだけで、時間管理はなされていない。年次有給休暇は病欠以外なく、申請書さえない。「働き方改革」「人出不足時代」において、「未来のない会社」になってしまいます。

このような状況で、収益性・安定性に乏しければ「お手上げ」です。少なくとも利益は半分、足らなければ利益を3分の1にしてでも、「会社の姿勢」を社員に理解してもらうことです。チマチマやるのではなく、一気に改善をすることです。特に残業代と休日出勤手当を解決する。休日を増やす事に集中する。既存の社員が「会社は本気だ」と思うレベルに引き上げる。これは経営者にとっては恐ろしいことです。上昇の流れをもし作れなければ赤字に転落する恐れもあります。でも、やるしかありません。

ヤマト宅急便も現状の労働条件の改善だけでなく、過去2年分の残業代の遡及払いも行いました。中小企業が過去分の精算となると苦しいが、少なくとも現在を抜本的に改善することが求められています。お金が出せない収益性・安定性に乏しい会社はどうするか。不採算部門・商品・顧客から撤退し、業務リストラを行い、まずは縮小・スクラップすることです。つまり、働き方改革を実行できるような人と組織の体制を軸に事業を再構築する他ありません。

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