鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2012年度 バックナンバー

VOL.100

この陶冶のコラムも2004年10月からスタートして今回で100回目を迎えました。そもそもこのコラムに目的は、同友会の目指す経営者・企業のあるべき姿や時代と同友会の関わりを映す『鏡』の存在になればとの思いで掲載を始めました。

 

陶冶の意味は、人の性質や能力を円満に育て上げること。人間のもって生まれた素質や能力を理想的な姿にまで形成することをいいます。要は『人間形成』のことをいう表現であり、『教育』とほとんど同義語です。

 

私自身は、同友会運動に携わらせていただき、『中小企業問題は教育問題』が持論に至りました。そういう背景からも人間形成や教育についての内容が過去のコラムの多くを占めています。

 

私の敬愛するジャーナリストの一人である「むの・たけじ」さんの詩と尊敬する社会学者のピーター・ファーディナンド・ドラッカーさんの言葉を紹介して百回を記念したいと思います。

 

『どのように生きるかに、焦る人は多い。何のために、生きるかに悩む人は少ない。生きる目的がはっきりしていれば、どのようにでも生きていけるのだ』。(むの・たけじ)

 

『経営者がなさなければならぬ仕事は、学ぶことが出来る。身につけなければならぬ資格がひとつある。それは、天才的な才能ではなく、実はその人の品性である』。(P・ドラッカー)

 

VOL.99

六年目を迎えた愛媛大学法文学における愛媛同友会提供講座が一月に終了しました。今期の提供講座は『働く事と経営の意味を考える』をテーマに15コマ12名の会員・事務局が登壇。

 

講座の目的は、生きた経済や経営を実践的に学ぶことで日本経済の仕組と、中小企業の全体像(歴史、魅力、役割、強み、弱み)が理解でき、中小企業が経済の主役であると同時に、中小企業の未来を担う人材を育てることにあります。

 

今年度の特徴は、会員講師の企業から社員が『働き方』について体験報告したことです。“経営者と社員と学生”の三者を『鍵』としています。中小企業の未来を築くのに若者は、なくてはならない存在です。しかし、何割かの新卒者は、やむなくフリーターにならざるをえません。中小企業が若者と共に企業を創造できるか、両者が生きる上での『鍵』となる内容です。

 

同友会の目指す企業づくりの『鍵』に「リーダーシップ」があります。リーダーシップとは、『手本=憧れの存在』と言い換えることが出来ます。具体的な行動や考え方の模範となる人物を「ロール(役割)モデル」と言います。

同友会には「ロールモデル」が多く存在します。そうした人生の先輩の存在が、若い世代の触発に大きな役割を果たしているのを実感するのが提起講座です。

 

“後輩を自分以上の人材に”自ら範を示して、その姿で皆を鼓舞する“。これが愛媛同友会の人材育成の伝統です。そのために、まず自分から、自己変革の挑戦を開始したい。

 

VOL.98

年が改まり、皆様には心新たに新年を迎えられていることでしょう。今年の干支は“巳年”(みどし)です。

 

巳年は、冬眠をしていた蛇が、春になり地表に這い出す形を表しています。地上で新たな活動を始めることから、従来の因習的生活に終わりを告げるという意味があると言われています。

 

東日本大震災以降、国内では原発やエネルギーの問題、国外では領土問題に端を発した周辺諸国との関係悪化など大きな問題に直面した一年でした。

 

愛媛同友会では、昨年の8月から始まった仲間づくり運動は、11月に開催した第二回経営フォーラムの成功を力にして、目標の五百名を12月に達成しました。5カ月間で80名を超える新たな仲間を迎え入れることが出来ました。

 

入会動機の共通点は、「経営が分かる人材を育成したい」。「新たな市場を開拓したい」。「経営課題を解決したい」。「経営者としての基礎を学びたい」。等々です。この期待に応えるためには、愛媛同友会の魅力である“全社一丸・同友会一丸”の会風を内外に育むことが肝要です。

 

巳年は、新しい物事が始まる年回りと言われています。私たちも、常に新たな気持ちで『変革を怠らない』事をこの一年の合言葉としてまいりましょう。

 

VOL.97

『人間とは何か?』。その探求は、あらゆる知的営みの根幹にあります。京都大学霊長類研究所の松沢哲郎所長も、チンパンジーに寄り添いながら、それを考え続けた一人です

 

同研究所の実験・研究によると、チンパンジーの子どもは、人間の大人を超える記憶力を持つという。一方、目や鼻や口を書いていない似顔絵を見せると、チンパンジーは顔の輪郭をなぞったりするだけ。ですが人間の子どもは、目や鼻や口などを描きくわえます。

 

ここから、チンパンジーは“目の前にあるそのもの”を見ていますが、人間はそこにないものまで見ていることが分かる。

 

松沢所長は結論する。『チンパンジーは絶望しない』『それに対して人間は容易に絶望してしまう。でも、絶望するのと同じ能力、その未来を想像するという能力があるから、人間は希望をもてる。どんな過酷な状況の中でも』(『想像するちから』岩波書店)

 

逆境に絶望するのも人間。ですが、希望を作りだしていけるのも人間です。ナチス支配下の、フランスで詩人ルイ・アラゴンは『教えるとは、希望を共に語り合うこと。学ぶとは、誠実を胸に刻むこと。』。(「ストラスブール大学のうた」より)と詠みました。

 

私たち人間は、困難な状況に置かれても『希望を信じ、希望に生きる』存在です。ことさら、同友会会員や事務局はそうあって欲しいと願っています。

 

VOL.96

読書の秋がやってきました。夜の寝苦しさから枕元に置いている本を取り出して読み始めましたが、面白くてやめられませんでした。

 

近頃、仕事の必要に迫られて新知識のみを追い求めていましたが、時には昔の本を再読すれば、年月の経過と共にまた新しい発見や、新鮮な感動を受ける喜びのあることを忘れていた自分に気づきました。『良書は枕元に置け』の格言を実感しました。

 

『失敗は、なるたけしない方がいいにきまっている。けれども真にこわいのは失敗することではなく、いい加減にやって成功することだ』この“詩”は、反骨のジャーナリストである“むの・たけじ”氏の詩です。

 

人間の心理や感情の深さにふれ、絶望の中に希望を見出す“詩”は生きることの意味と価値を考える上で、励まされると同時に、勇気が湧きます。知識として理解しながら毎日の仕事の中で、おろそかにしている自分が詩の中に映り、“詩”の熟読は行動への引き金になると思いました。

 

“むの・たけじ”氏の“詩”をもう一編紹介します。『どのように生きるかに、焦る人は多い。何のために、生きるかに悩む人は少ない。生きる目的がはっきりしていれば、どのようにでも生きていけるのだ』“人生”を経営や同友会に置き換えて考えるのも一考だと思いました。

 

VOL.95

リーダーの多くが『伝え方』を重視します。筆者も会員や事務局員への伝え方には留意しています。良い情報を伝える役目は皆、喜んで引き受けるものです。

 

悪い情報を伝えるには、メールや電話ではなく、相手に直接告げるよう心がけています。言いづらい事を、いかに正確に、丁寧に、遅滞なく伝えられるか。そこに、個人の人間性が表れるし、組織が伸びていけるかどうかの鍵があると思います。

 

『危機状況下では、互いに隠し立てすることなく社員や取引先に誠実に接することが大切』。愛媛同友会のリーダーの一人は語ります。

 

危機的な状況におかれた企業では、“相手の立場に立ったリーダーの言動”や“皆が伸び伸びと能力を発揮できる明るい雰囲気づくりをリーダーが率先して取り組む”事で危機から脱出した会員事例を目の当たりにしてきました。

 

企業や同友会の目的は、社員や会員が“幸せと充実”の人生を送るためにあります。ただ方針を伝達するのではなく、『目的は何なのか』や『なぜ今、それが必要なのか』、等を分かりやすく、丁寧に伝え、『合意と納得』を得ることは、物事を前進させる基本です。今、取り組んでいる“愛媛同友会五百名会員実現運動”では、その事が試されています。

 

VOL.94

あの感動と寝不足が続いた夏のロンドン・オリンピックも終わりました。ロンドンでは経営環境の厳しさの欝憤を晴らしてくれるかのような世界各国の選手の活躍がありました。

 

栄光と挫折。歓喜と悲嘆。四年に一度しかめぐりこない舞台だからこそ、鮮烈なドラマが胸に焼きつけられます。

 

ほんのわずかな差、時の運で、スポーツの勝者と敗者は残酷なまでに分かれます。勝った者が一番努力したとは限らないし、努力した者が必ず勝てるわけでもありません。

 

本当の人間としての勝敗を決めるのは、そこからどんな結論を導き出すかだと思います。だから『努力してもしなくても同じ』なのか、『向上したいと努力すること、そこに人間の証がある』と考えるのか。

 

スポーツも経営もそして人生も、常勝というわけにはいきません。長い苦難の時期をいかに体質強化に努めるかが、次にくるチャンスを生かす秘訣でしょう。今回のオリンピックで見せた世界各国の選手の“伸びの伸びした姿や強さとしなやかさ”、もう一つは、目標に向かって、必ず勝つという強い意志と連帯感。

 

愛媛同友会は現在、500名会員実現に向けて仲間づくり運動に取り組んでいます。目標は必ず実現するという強い意志をリーダーが持つことが、全社一丸の同友会になる鍵です。答えは、この夏の熱い闘いの中に詰まっています。

 

VOL.93

夏の星空の下、お世話になっている皆さんにお礼の言葉を絵葉書にしたためています。無趣味に近い私にとって、“その人のこと”を想像して絵葉書に詩を書くことは趣味に近いものとなっています。

 

日常の仕事では、手書きの文字に接する機会がめっきり減り、それどころか昨今はIT化が進んで、紙媒体そのものの危機さえ指摘されます。メールなどの電子媒体は便利で大いに活用したいと思いますが、苦手です。

 

紙に書かれた文字に接すると、心がなごむと同時に、読者に“筆者はどれだけの思いを込め、何を伝えたいのか”との想像力が働きます。それが、自身の考えを、より効果的にまとめることを促します。さらには、こうした思考の訓練は、他人を思いやる感情を豊かにすることにも通じます。手書きの文字なら、効果はなおさらに違いありません。

 

この間、筆者にはたくさんの葉書や手紙を頂いています。一気に綴ったと思われる筆致。肉筆には文字に込めた深い思いがにじみ出ているようで、送り手の想いを味会うことができます。最近届いた中同協のTさんからの『人の幸せ』についての葉書は心うたれました。

 

七月(陰暦)の異称は『文月』。暑中見舞いなど、直筆で近況や送り手の事を想像して詩や小説の一節を綴り、友人に送ってはいかがでしょう。

 

VOL.92 『経営者の学ぶ姿勢』

本物への道・・・小説“宮本武蔵”などで有名な作家・吉川英治氏は『やさしい、むずかしい、どっちもほんとだ。しかし、むずかしい道を踏んで。踏んで、踏み越えて、真にむずかしいことを苦悩した上で、初めてやさしい。それを知った者でないと、“本物”ではない』。と“本物になるヒント”について語りました。

 

同友会運動は、会員同士の学び合い、実践を通して“本物の経営”や“本物の企業のあり方”をお互いに問いかけ合い、そして“中小企業で働く意義と人生との関り”を考えて“本物”に近づいていく学びの場です。

 

皆さんは同友会で、どんな学び方をしていますか?まずは、参加する事です。続いて、メモではなく、しっかりとノートをとること。

 

そして、学んだことや気づいたこと、問題や課題を整理するためにレポートを書くこと。そのことを通して問題意識をつくること。機会があれば報告者になること。

 

この繰り返しを同友会の例会や会合で実践すること。これが本物に近づく“原則”です。この地味なことを“愚直(ひたむき)に真っすぐ”に実践出来るかが“本物の経営者”になる“鍵=法則”だと二十七年間、会員皆さんの姿を見て実感します。

 

“本物”になるか“偽物”になるかは、あなたが選択できます。生きることや経営には“魔法”はありません。

 

VOL.91 『学び方を学ぶとは?』

『すごい』の理由・・・アメリカ大リーグに入団したダルビッシュ・優投手の活躍は『すごい』ですね。それでは視点を変えて、同友会の持っている『すごい』を紹介します。

 

それは『学び方を学ぶ』という同友会の学びの方法です。皆さんご存知の通り、同友会ではグループ討論を基本にしています。野球に例えるならば、最初に報告者の話を、まず直球で受け取って学びます。次にグループ討論の中で、受け手による違いのあることを率直に認めます。

 

そして、その多様な考え方の中から同友会理念(もしくは、皆さんの経営理念)に照らして、どの考え方が選択されるべきものなのかを学びとっていきます。しかも自らの体験に引きつけて(ここがポイントです)考え、学びます。

 

そこで気になるのが、どうすれば「学べるか?」ということです。「学べる」ための第一の条件は、受け手が謙虚であるということです。つまり、自分の考えを押しつけない。報告や発言の時は、白紙にして何事も直球で受け取ることです。

 

皆さんもご承知の通り、グングン伸び伸び成長する人の共通点に“積極的な謙虚さ”があります。直球からも学び、変化球(多様な考え方)からも素直に学ぶ。この循環を通して「骨太なリーダー」となります。『すごい』といったのはそういう理由です。

 

VOL.90 『同友会を経営に活かすとは?』

同友会理念の実現とは、簡潔に言うと、経営者自身にとっても、社員にとっても『ここで働いて良かった。わが人生に悔いはなし。』と本音で言える企業や職場をつくることです。

 

同時に、地域社会から、そして、日本中から支援され信頼されるにふさわしい企業活動や一人の人間として社会を発展させる立場に立つ生き方を追求してゆくことでもあります。

 

同友会の会員や事務局は、同友会理念の生きた姿として注目される存在です。たとえば、『同友会について知りたいですね?・・・それなら、まず、私を見てください。』と言い切れるような会員や事務局を目指すことです。そう言える人が多く存在するのが同友会の価値であると言えます。そのためにも日々の研鑽がものを言います。

 

この事を企業経営で実践するのが、同友会活動を企業経営に活かすという意味です。『この企業のことを知りたいです。それなら私を見てください。』と言い切れる人をいかに育てるかが企業経営における最重要課題です。

 

少なくとも愛媛同友会の会員や事務局は、同友会で学んだことを人間関係、家庭や企業そして地域社会で生かし、共に学び、共に育ちあう社会を創造してくいただくことを願って止みません。

 

VOL.89

四月に入り新年度を迎えました。ところで、皆さんライバルの意味をご存知ですか?ライバルを辞書で引くと「競争相手」とか「好敵手」という言葉が出ますが、実はもっと深い意味があるのです。

 

そもそも、ライバルの語源はリバー(川)から来ているといわれています。因みに“川”は人生に例えられることもあります。「競争相手や好敵手」のように、川の対岸に向き合っている二人を想像しがちですが。そうではなく、同じ川の中で“川上と川下”に位置する二人を想像してみてください。

 

川には流木や岩が流れてきたりするなど、様々な困難があります。その都度、二人は声をかけ励まし、援け合いながら、目標に向かって人生(川)を歩むのです。目標を共有し援け合う関係を本来、ライバルというのです。

 

みなさんのライバルは誰ですか。よく考えてみてください。友人、同僚、社員、お客様、それとも会員。はたまた自分自身でしょうか。

 

ライバルがいない方は、同友会でつくることをお勧めします。同時に、『あなたが私のライバルだと』言われる存在になろうではありませんか。この四月、私のライバルの一人である新聞記者のY氏が松山から東京に旅立ちました。Yさんの活躍を期待します。

 

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