鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2006年度 バックナンバー

VOL.30

「人は任せられることによって成長を速める」ということについて異論は少ないでしょう。しかし、日常的にはどう具体化しているかということになると「理想はそうだが」とかの前置きがついて「まだ、わが社の社員レベルは、そこまでいっていない」という経営者は意外と多いのではないでしょうか。

 

任せるためには二つの条件があります。ひとつは理念を体得し、あらゆる発想や行動の基本としてにじみでるようになっているかどうか。もうひとつは、実務能力のレベルがあります。二つを強める場の設定や教育的視点による日常的なリードがなされてこそ、任せられる条件が成熟していくことになります。

 

この事に関して「学ぶとは何か」も考えておきたいテーマです。学ぶいという言葉に酔って、本当の学びの本質の認識や学ぶこと自体がおろそかになっていないかどうかです。学ぶとは、未来を創る上での基礎を固めるための諸要素の獲得であり、もうひとつは先人が苦労してつみあげた技術やノウハウを学ぶことで知らなければゼロから考えなければならない試行錯誤の無駄を、短期軽減しようということです。極めて当たり前のことのようですが、それだけ学ぶという本質と認識は抜けやすいものです。根のない花にいくら水を与えても、自立した生命にまでは育ちません。

 

VOL.29

先日、愛媛大学との共同で取り組んでいる第15回景況調査(2006年10月~12月期)判定会議に出席しました。会議で感じたことですが、経営者(会員)の中にある種の“落ち着き”を感じます。景況は決して好転したわけではありませんが、この間の不況と停滞の中から、先行き不安はあるものの、腹がすわっているとみるべきでしょうか。どのみち甘い期待はもてませんが、知恵をしぼり、全力をあげて立ち向かえば、道は切り拓けるという確信が読み取れたことです。

 

この間、会員企業を訪問して共通して感じることは「不況は普況。時代変化に対応した企業が生き残るという認識を持っていること」「地域間、企業間の二極化が進む中で、発展している企業は特別のことをしているわけではなく、原則通りに強みや特色を活かして努力していること。逆に淘汰される企業には、危機意識が弱いということ」「経営指針を社内に浸透させ、社員が経営指針を理解して自らの行動基準にしていること」「社内での学習体制が確立され、経営者はじめ社員が意欲的に学んでいること」

 

景況調査の経営上の力点は、「新規受注の確保への努力」「付加価値の増大」「社員教育」です。自社の得意分野への掘り下げ、新しい市場開拓チャンスの獲得は、そのどれもがトップの着眼点の鋭さを感じさせます。景況調査を経営指針確立・運用の良き材料とすることをお勧めします。

 

VOL.28

2007年を、どのような年にしましょう。私たちは、厳しい現実に耐えながら挑戦し続け、いつか厳しさを平常のものと受け止められるようになってきました。そのことは、前向きな意味も意義もありますし、企業や組織の草創期や新技術・新製品の開発には欠かせない要素でもあると同時に、不況や激動期には、社内や組織内の態勢をそこに持っていけるかどうかに社運もかかります。

 

平常のものという時、心にとめておきたいことが幾つかあります。必要で望まれることを普通にできることが「慣れる」。他人に対して違和感や警戒心を抱かなくなることを「馴れる」。親しみ過ぎて礼を欠くことを「狎れる」というと教わったことがあります。もう一つ、なれたのではなく、あきらめてしまったので、見た目には「なれ」と錯覚する場合があります。

 

この四通りのうち、どれを自社の現実にするかは、リーダーの基本的スタンスと日常の「共学・共育・共生」実践が問われることになります。厳しくなると、挑戦とは掛け声だけで、実際は逃げ腰になってはいないかを常に問い合う関係づくりをすすめましょう。

 

前向きに共に新しい仕事づくりに邁進できる人育てを強めて、失業のない活力溢れ元気で豊かな地域づくりを担う、中小企業こそ、日本経済の真の担い手であることを現実の成果で示す2007年にしましょう。

 

VOL.27

愛媛同友会では、今年度同友会活動の柱となる経営体験の交流を軸とした例会を重視しています。普及を乗り切るための中小企業の血の滲みでるような努力、社内的合意を得ながらの大胆な機構改革、普段はなかなか手をつけられなかった課題に取り組む経験等、恥ずかしさを厭わず発表、交流できてこそ同友会らしい学びの場と言えます。自分自身の経営姿勢を正す。あるいは学んだことを社内で実践してみる。こうすることで会社がよくなり、自分自身も成長していく、これが本来の学びではないでしょうか。

 

今、同友会で力を入れていることの一つに、グループ長やグループ発表者の養成があります。報告を聞いた後のグループ討論で、どれくらい議論を深めることができるかによって学ぶ深さも変わってきます。その際、決定的な役割を果たすのがグループ長。グループ長は、報告のポイントをつかみ、テーマにそって参加者の意見をくみ上げ討論を進行させる力量が必要です。

 

グループ長を経験することにメリットは何か。【1】報告者の話に真剣に学ぶ【2】問題の本質やポイントを素早くつかむ力がつく【3】人の意見を良く聞き、意見を引き出す力が養われる。グループ発表者のメリットは、簡潔に相手にわかりやすく伝える力が身につく。グループ長も発表者も率先して引き受けたいものです。

 

VOL.26

「伝説の営業マン」ことS社に勤務するT氏をご存知でしょうか。T氏は、お客様からの紹介を通して新たな顧客づくりによって入社から約28年間で業界前人未到の一千棟の住宅販売を達成した人物です。その実践には、特別な方法があるわけではなく、日々の努力と謙虚さの連続でした。それを「信頼の連鎖」と呼びます。

 

今年度の愛媛同友会の会員拡大活動の重点も「信頼の連鎖」を確立することにあります。具体的には、事前報告会を1回~3回行う→ゲスト参加を募る→当日の例会→懇親会→入会→支部幹事会で例会の総括・方針→次回例会事前報告会。これを「勝利の方程式」と呼んでいます。この方程式は、今治支部からスタートし四国中央支部、そして松山第1・第2支部へと広がっています。

 

同友会への入会動機は多岐多様ですが、経営者が質の高い学びの場を同友会に求めているのはこの間の特徴です。一方で人間的な暖かさも求めています。そしてその扉を開くのは社内や社外で「共に学び、共に育つ」土壌づくりを実践している同友会会員です。

 

同友会活動で自己研鑽を怠らず企業革新をはかり、強じんな体質の企業になる「方程式」を同友会活動で確立し、その事例を示すことが会員拡大の最大の説得力でもあります。

 

同友会は、時代を切り拓き企業変革をのぞむ「最も良識のある元気な経営者団体」であることを、この秋、愛媛県内に広く連鎖させる時です。

 

VOL.25

秋雨前線も全国の青年経営者の熱気で遠のいた徳島で「地方ルネッサンスは、阿波の山河から」をメインテーマに第34回青年経営者全国交流会が開催された。創立十周年の徳島同友会を応援すべく四国四同友会が連帯するという初めての取り組みということもあり愛媛から県外参加として過去最高の30名が参加した。

 

真鍋明会員が「それぞれの“自分らしさ”で勝負!」をテーマに、喜びと誇り、そしてやり甲斐を追求している社員教育の実践を率直に問題提起。創業者、後継者、幹部社員と全国から集まった多様な参加者は、「何のために経営をしているのか。」「本当に人が育つ経営をしているのか。」「どうすれば社員満足が実現できるのか。」を問いあった。

 

分科会には、90名に迫る全国からの参加者があった。座長の玉井和幸会員のリードよく、自分達の言葉で話すことを心がけた運営はさわやかであり、心なごみ本質に迫る分科会となった。

 

かつてフランスの詩人ルイ・アラゴンは「人は連帯を実感した時に幸せを感じる」と言った。仲間たちと一緒に歩いた徳島の夜空は連帯の星の数々。連帯を実感できる企業や同友会をつくることを誓いあった第34回青年経営者全国交流会となった。

 

VOL.24

今年もいろんな意味を持つ8月15日がやってきました。この日、愛媛県戦没者追悼式に参列しました。追悼式は、厳粛で静かに戦没者を追悼し、平和を祈念する同時に、戦争の痛ましさ、歴史への責任と生きることの重みを考える内容でした。

 

しかし、戦後61年が経つと、もはやこの日の持つ意味が大いに風化していることを感じます。最近の世論調査では、1980年代生まれの若者たちには、日本がアメリカと戦争をしたことすら知らない者もいるとのこと。現代史の勉強がおろそかになっていることを痛感します。

 

今日の繁栄は、半世紀にわたる平和の維持なくしてはありえなかったでしょう。時代を担う若者にこそ、日本国憲法のもと平和で安全な社会を希求し、その構築に努めてきた戦後の歴史を学んで欲しいと思います。言うまでもなく、私たち中小企業は、平和で安定的な日本社会の発展に寄与してきました。“賢者は歴史に学ぶ”と言われるように、社員教育に“現代史や中小企業運動”の時間を持つことが必要だと感じますがいかがでしょうか。

 

まずは、中小企業家が自社の社員教育で“世界の動きと日本の関係”や“社会と自社の位置”そして “人間としての生き方”を語れる人になることが肝要だと思います。まずは、“隗より始めよ”、自戒を込めて心がけたいものです。

 

VOL.23

事務局には、毎月数社の会員企業から社内報が届きます。それぞれの社内報には個性があり共通している点は、「書き手=製作者の想いが伝わる」ということです。

 

先月、愛媛三菱農機販売株式会社(会員・米山尚志社長)から社内報が届きました。名前を「TOMORROW」と呼びます。1998年4月からスタートして2006年7月号で創刊百号を迎えました。

 

社内報「TOMORROW」の魅力はなんと言っても「社員とお客様と企業の顔が見える」ことです。社内報には毎回必ず米山尚志社長の方針が載っています。先月の方針は「共に育つ社風をつくろう」です。毎月の旬・歳時記に始まり、社員へのインタビュー記事、お客様の紹介記事、商品紹介、誕生日紹介、編集後記等々。

 

創刊から回を重ねるごとに、より良い誌面を創るために情報収集や技術を高めてきた社内編集部に学ぶ点は大いと同時に、貴重な財産だと思います。

 

社内報の意義は「社内のコミュニケーションを活発化し育ち合う糧とする。全社員が内外情勢や会社方針や問題意識を共有する」ことにあります。

 

そもそも社内報の出発点は経営指針が目指す企業文化創りにありました。米山さん曰く「社内報を通して情報が共有化され、社員同士の風通しがよくなり、お客様に対し丁寧な仕事が出来るようになっている」とのことです。

 

“共に学び、共に育つ関係を企業の内外につくる”ことを目指す中小企業にとって学ぶ点が多いと感じました。

 

VOL.22

7月に入り本格的な活動を迎えました。今回は、同友会活動で“学ぶ鍵”をご紹介しましょう。それは「学び方を学ぶ」という学び方です。「学ぶ」とは単に知識を増やすとかノウハウを知るということではなく、物事の本質をつかみとることを意味しています。相手の真意や背景をつかみ、本質をふまえてもっと内容を発展させ、豊かにする力量を身につけることが大切になります。

 

力量を身につけるには、知識を本当の意味で“血肉化”させることです。「見たり」「聞いたり」「試したり」という実践が必要となります。試してみて失敗して「どうして失敗したのだろう」ということで考え、その理由に気づいた時が一番身にしみるのだということになります。このことを通して“人の気持ちもわかる人間”にもなります。

 

同友会で言う「学び方を学ぶ」は、学び方の多様性を前提に、だれからも学ぼうとする積極的な謙虚さと熱意と何よりも大きく深い問題意識を抱え続ける“姿勢”をもつことです。

 

経営者にはいろいろな学び方が必要です。不透明な時代には、良好な人間関係も大切な条件だと思います。人間関係がうまくいっていれば、どんな知識や情報でも意外と入ってくるものです。この時代を切り拓く鍵は、『君だから教えてやろう』という気持ちにさせるような人間的魅力を持つことが肝心だと思うのですが。

 

VOL.21

5月24日、愛媛同友会の第22回総会が開かれました。一年間の活動を振り返り、第四次中期ビジョンを採択した大切な行事でした。

 

総会では、一年間の活動を深めるために課題別報告会を設けています。「新しい支部づくりで、共に学ぶ仲間の輪を広げよう」会員拡大活動、「社員との共育を活動の柱に」例会・経営指針・社員教育委員活動、「産学官連携の促進」企業変革支援プログラム・景況調査・チャレンジジョブ活動、「新規事業への着手」情報化活動、等々の4テーマで会員や研究者が特色ある報告を行ないました。

 

昨年度、今治支部幹事会では支部設立年でもあり同友会理念の原点を学ぶことを目的に「同友会運動の発展のために」をテキストに使った学習会が行なわれました。輪読形式でテキストにそって理解を深める学び方です。

 

総会は新旧役員の交替の場でもあります。今年も長い間リーダーとして活躍していただいた方が退任されました。同友会は役員の選任にあたっては機械的な輪番制や総入れ替えは行なわないようにしています。それは運動の蓄積と継続性を保障するためです。同時に、有能な役員が登場し、組織の活性化を図ることも大切です。

 

リーダーは組織の顔でもあります。とりわけ同友会の場合は、役員が同友会理念をどう企業づくりで実践しているかが問われ、会の対外活的評価にもつながります。新に会の負託を受けた新役員の皆さんの奮起が期待されるところです。

 

VOL.20

新年度を迎え、心新たに本屋さんに足を運んだ。本屋さんには驚くほどたくさんの新刊書が並び、時間帯によっては、本を探すのに苦労するほど客も多い。だが、売り場全体を見ると、客の流れに一つの傾向があることに気づく。雑誌類売り場に客だまりが最も多いことだ。

 

調査やアンケートを行なった訳ではないから、単なる感じにすぎないが、どうやら安直に情報を得たいというニーズが多いということではないのか。とすれば、「じっくり」とか、読書に「ひたろう」かという雰囲気とは、縁遠い。とここまで思いをめぐらせて、ふと違うことを考えた。

 

当然経営者とのふれ合いが多い訳だが、最近季節感がなくなったという話題にも、しばしば話が及ぶ。一面では誠にその通りになる現実的理由があるのだが、一方で独り「熟考」するとか、ひとり散策することなど無くなっているのではないか。それだけ、「スピード」や「効率」というモノサシが生活の中にはいりこんでいるのだと感じた。

 

同友会はどん欲に学ぶ会である。ちょっと気になるのは、学ぶことから知る興味へと進み、原点とは無関係に「答えを出す」ことを急ぎすぎているのではないかという点である。仕入れた情報や教訓をじっくり反すうして自分のものにした時、はじめて学んだことになる。知るだけでは、絵に書いた餅かもしれない。旺盛な行動力と同時に新年度を迎え、「熟考」する時間も必要ではないか。

 

VOL.19

新入社員を迎える“春”となりました。苦労して確保した人材、その一人ひとりをどう育てていくのか、経営者や幹部社員の責任は重い。

 

中小企業は、“人の採用と育成”が弱点と言っても過言ではありません。中途採用や中高年者、パート・アルバイトの雇用に頼ることも含めて、多様な人材確保策に迫られています。しかし企業の存続、発展を考えるならば新卒者を計画的に採用し、自前で教育を行い、常に組織の若返りと人材の蓄積をはかっていかねばなりません。

 

新卒者の採用は人事戦略の基本にすえられるべきですし、採用できる企業体質への転換こそ、企業の生き残りの条件でしょう。

 

同友会では、経営者を含め全社員が「共に学び、共に育つ企業」を目指しています。「共に学び、共に育つ」企業をひと言でいえば、人間的信頼関係を基礎に“アテにしアテにされる関係”を築き、経営者や社員が生き生きと働くと同時に、仲間や会社そして仕事に誇りを持っている企業と言えます。そういう企業の社員は、学校の後輩や友人に入社を勧めてくれます。

 

社員の欠点やアラばかり指摘する経営者や人材のいないことを愚痴ってばかりいる経営者にも時々お目にかかりますが、それでは若い人は定着しません。

 

人を大事にすることは、ものすごく手間隙がかかるものです。私自身、入社当時を顧みると弱点ばかりに気がつきます。若い頃の自分と置き換えて新入社員を見ることも新入社員を育てるヒントになるのではないかと思います。

 

弱点を持ち味に置き換えて考えてみると、不思議にその人の生い立ちや全体像がよく見えてくるものです。同時に長所も浮き彫りになります。“春”は新入社員を迎え、社員を深く見つめ直す季節なのかも知れません。

 

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