鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2016年度 バックナンバー

VOL.135 秋の夜長、詩と共に

桜並木に守られた疎水が人生のように曲がりくねっています。入院生活の無聊を慰める窓辺の景色。私は今、佐賀の病院にいます。芸術の秋だからでしょうか。これまでに出合った詩を改めてかみしめています。

 

大学時代に知ったのは、ルイ・アラゴンの『学ぶとは、誠実を胸に刻むこと。教えるとは、希望を共に語りあうこと』。図らずも同友会の共育・共学の理念を表しています。

 

愛媛同友会草創の時、大野栄一さんへ贈ったのはホイットマンの『世界中の誰もが、私を賞揚しても、私はひとり静かに満足してすわっている。世界中の誰もが私を見捨てても私はひとり静かに満足してすわっている』でした。

 

中同協・経営指針専任講師だった故・吉本洋一さんへの哀悼としたのは、ポール・エリュアールの『自由』です。『学校のノートの上 勉強机や木立の上 砂の上 雪の上に 君の名を書く…中略…一つの言葉の力によって 僕の人生は再び始まる 僕の生まれたのは 君と知り合うため 君を目ざすためだった 自由と』。吉本さんは愛媛の経営指針成文化運動にご協力いただいた方です。

 

先日101歳で亡くなった、むのたけじさんの作品で私のお気に入りをご紹介しましょう。『最初に無視、次に賞賛、次に非難。新しいものは、たいがいこの順序でためされる』。愛媛同友会31年の歩みは、まさにこの詩そのものだと思います。

 

苦楽の時、畏友・大野さんはホイットマンの詩を愛唱していただいているそうです。進むことは大事ですが、未来と向き合うためには振り返っ て考えることも欠かせません。経済とは、経営とは、同友会運動とは。見識見解を備えた人たちが愛媛の同友会運動から生まれることを願ってやみません。

 

一編の詩と共に過去から学ぶ秋の夜長。疎水の先に思いをはせ、私は未来と向き合っています。

VOL.134 奇跡は望むものではなく、欲しいと望むものを自らつくるもの。希望は、絶望のど真ん中にある。

戦後71年目を迎えた終戦の8月に反戦・平和を一貫して訴え続けた反骨のジャーナリスト・むのたけじさんが8月21日に101歳で亡くなりました。太平洋戦争の報道で新聞記者として国威発揚に加担した反省から、戦後は故郷の秋田県で新聞「たいまつ」を発刊。詩もたくさんつくり「詩集たいまつ」等が著書にあります。著作や講演活動を通じて、戦争の愚かさや人生の妙を縦横に論じ、味わい深い箴言(しんげん)を私たちに伝えてくれました。

 

「花はどんなに美しく咲いても、茎が折れたらすぐしぼむ。ひとすじに貫くものがあって実を結ぶ」。数ある詩の中でも私の好きな詩のひとつです。

 

むのさんは、「奇跡は望むものではなく、欲しいと望むものを自分たちが自らつくるものだ。それを求めるなら、まずあきらめること自体をあきらめることだ。どんな時でも希望は、絶望のど真ん中にある」という言葉は、病気と共に歩んでいる私の生きる支えにもなっている言葉です。

 

「くり返し力説したい。人は誰でもその人にふさわしい役割。その人でなければならない仕事をめいめい必ずひとつは持っている。だから自分は、誰にも劣るものではなく、だれかに優れるものでもない。それを知った時、人は自立する」この詩も、優劣で価値判断しない同友会理念を体現した詩そのものです。同友会会員や事務局員なら共感する詩ではないでしょうか。

 

むのさんは、過去の戦争報道の反省から「歴史がどこに向かっているかを伝えよ」と、ジャーナリズムに警鐘を鳴らし続けました。私たち同友会運動も戦前や戦後の「戦争と中小企業」の教訓を学び伝えることが大切だと思います。

 

例えば、戦後の景気低迷の中、朝鮮戦争の時に「戦争になれば景気が良くなる」という朝鮮戦争特需の神話は、一部の産業に集中。1951年の休戦会談を機に、反戦不況に陥りました。このような歴史の教訓をしっかりと学ぶことが大切です。むのさんの戦後の人生は、失敗を教訓とし、法則化するという『憧れの存在』そのものでした。

 

大切なのは、世の中の流れに身を任せるのではなく、自立して考えること。そして職場や同友会で自由闊達に語り合える社風や会風を大切にすることが「むのたけじ」さんの生き方から教えられます「世の中は捨てたものではなく、世の中は信頼に足る」ことを実証する生き方を誓った8月でした。

VOL.133 先ず ( かい ) より始めよ

7月10日に行われた今回の参議院選挙の結果は、自民・公明の政権与党が三分の二を占め、憲法改正に必要な議席を確保しました。今回の参議院選挙は、18歳選挙権を初めて適用、国政史上初めて野党統一候補が生まれるなどの新しい動きもありました。

 

今回の争点は、憲法改正の是非、安保法制への評価、経済政策・アベノミクスの是非、財政再建、TPP・農業改革、社会保障・少子化対策、原発再稼動が主な争点でした。

 

そういえば、今年のEU離脱のイギリスの国民投票は7割を超え、昨年のスコットランド離脱では8割を超える国民投票がありました。まさに国民と国の命運をかけた選挙でした。ひるがえって今回の国政選挙は戦後史上最低の52%の投票率を2%上回る54.7%でした。日本の民主主義の成熟度が問われた選挙でもありました。

 

かつて故・宇高昭造さんに中小企業が世の中から『憧れられる存在』になる時はどのような時ですか?と尋ねたことがあります。その時、宇高さんは、『国政選挙で投票率が8割以上の状態ですね。そういう時は、国民の人生の命運と国の命運とが重なっている時です。それは、自分の人生に責任を持つ人がたくさん存在しているということだと思います』・・・『本物とニセモノを見極め、見抜く人がたくさんいる社会です。人をはじめ商品やサービス、オペレーション等々、本物をつくり、世の中に提供しているのは中小企業でしょう?』・・・『そういう中小企業になるのを応援するのが同友会の役割でしょう。そういう世の中になった時に、本物の中小企業に育っているかが中小企業の正念場です。その時が、中小企業が憧れられる時代ですね』。・・・宇高さんの話を聞いて同友会運動に関わるひとりとして、身が引き締まる思いをしたのを昨日のことのように思い出します。

 

国政選挙では政治家が国民の洗礼を受けますが、経営者は市場から常に評価を受けています。赤字決算は評価が悪いと考えなくてはならないでしょう。

 

国民と国の命運をかけた国政選挙同様に私たちの経営も働く人の命運をかけた経営を実践することが大切であり、中小企業が世の中から『憧れられる存在』になることです。そのためには、経営者をはじめ働く人々が『自らの生き方と企業の生き方を重ねる経営を実践する』ことです。『先ず隗(かい)より始めよ』。だと思います。

VOL.132 同友会で学ぶ企業経営とは・・・「経営者」になるための企業経営のことです

「経営者」が、同友会で学ぶ企業経営について考えてまいります。そもそも、企業とは、経営・資本・労働の要素から成立しています。因みに、ブラック企業とは分配率が経営や資本に偏重している企業のことです。

 

企業の役割は、経済(生産・流通・消費)と文化(教育、等々)を通しての「より良い世の中をつくる」担い手の役割があります。

 

より良い世の中をつくるために求められる企業とは、

第一に人・モノ・金・情報等々を安心・安全・希望の観点で生産すること。

第二に、働き方を含め労働が人間の成長につながることを証明して人間の全面発達を保障することです。

第三に、豊かな人間らしい暮らしと生活を保障することです。

 

そのために、同友会は、『人を生かす経営』を実践することを提案しています。ここで大切なことは、どんな経営環境であっても利益をあげ、雇用を維持増加させ、世の中からあてにされる持続可能な企業をつくることです。

 

同友会で学ぶ企業経営とは、『利益・分配・信頼』の3つが鍵となります。

第一に、利益のあげ方を学ぶ。まさに、経営の入口です。それは、顧客創造です。

第二に、利益の分配方法を学ぶことであり、経営の出口です。それは、経営者や社員の意欲の源泉でもあります。

第三に、社員は経営者の最も信頼できるパートナーと「なり得る」ことを学ぶことです。そのためには、経営者と社員が人間として成長・発達できる方法を学ぶことであり、労働と職場の教育力を高めることが鍵となります。

 

最後に、経営学者でもあるピーター・ドラッカーの言葉を紹介します。「経営者がなさなければならぬ仕事は学ぶことができる。しかし、経営者が学び得ないが、どうしても身につけなければならぬ資格がひとつある。それは天才的な才能ではなくて実にその人の品性である」。「経営者」として心すべき警句でもあります。

VOL.131 あなたが私のライバルだ!

6月に入り新入社員も一息をついている頃だと思います。新入社員のライバルは見つかりましたか。ところで、皆さんライバルの意味をご存知ですか?ライバルを辞書で引くと「競争相手」とか「好敵手」という言葉が出ますが、実はもっと深い意味があるのです。

 

そもそも、ライバルの語源はリバー(川)から来ているといわれています。因みに“川”は人生に例えられることもあります。「競争相手や好敵手」のように、川の対岸に向き合っている二人を想像しがちですが。そうではなく、同じ川の中で“川上と川下”に位置する二人を想像してみてください。

 

川には流木や岩が流れてきたりするなど、様々な困難があります。その都度、二人は声をかけ励まし、援け合いながら、目標に向かって人生(川)を歩むのです。目標を共有し援け合う関係を本来、ライバルというのです。

 

みなさんのライバルは誰ですか。よく考えてみてください。友人、同僚、社員、お客様、会員それとも・・・。はたまた自分自身でしょうか。

 

私自身は、中小企業運動に31年携わらせていただき、『中小企業の弱点は、ライバル=憧れの存在が少ない』ことが持論に至りました。

 

中小企業や家庭、学校をはじめ、組織と名のつく人材育成の基本は『憧れ』の存在を育成することだと思います。『憧れ』をつくる基本は、リーダー自らが『理念』を持つことから始まります。

 

そういうリーダーの姿が、周囲にいきわたり、瑞々しい生き生きとした環境を生みだします。ライバルがいない方は、早急につくることをお勧めします。特に、経営者は社員同士、会員は会員同士のライバルをつくることが鍵です。同時に、『あなたが私のライバルだと』言われる『憧れ』の存在になろうではありませんか。

VOL.130 今、連帯の精神を発揮する時! ~仲間がいれば、人は強くなれる~

4月14日の夜に起きた、熊本県を震源とする震度七の地震とその前後に震度一以上の地震が683回(4月20日午前11時現在)起きていることに心が痛みます。

 

熊本を中心に頻発している大地震の被害は、北部九州を巻き込む広範なものとなり、大きな余震や大雨による土砂災害なども重なり、震える心身を毛布で包み込み、眠れぬ夜を野外で過ごした人も多数います。

 

中同協では「熊本地震対策本部」を設置して、
[1]義援金の呼びかけ、収集と必要な資金・物資の投入。
[2]復興へ向けて被災地が必要とするものを明確にし、全国に依頼する。
[3]現地訪問、励まし、支援。
[4]復興のための公的施策を現地同友会と協議する。
[5]被災地の同友会の復興組織と連携し、復興への方向性、情報を共有する等々を全国の同友会と連帯して、熊本同友会地震対策本部を中心に支援・激励に全力を挙げています。

 

“同友会は常に、皆さんと共にある!”この連帯の精神を今、熊本、大分で地震からの復興に挑む仲間に届けています。長引く避難生活に、たまった心身の疲労は、いかばかりか。

 

4月は無情の雨が九州の地をたたきました。思えば、震度七を記録した「阪神・淡路大震災」「新潟県中越地震」の時も、数日後、悪天候に見舞われました。また「東日本大震災」の発災当日は、月明かりのない雪の暗夜でした。被災された皆さんは過酷な試練に負けませんでした。

 

自然の猛威を前にした時、一人の人間の力は限りなく小さく感じます。しかし人間には、危機の時に寄り添う心、逆境にも耐えて立ち上がる回復力があります。そのことを今、思い出しています。

 

被災された皆さんの安心・安全・希望のため、熊本と九州の一日も早い復旧のために、連帯の絆を力強く広げたい。仲間がいれば、人は強くなれます。

VOL.129 社長、代表取締役、事業家、経営者の違いとは? 皆さんは、経営者ですか?

日ごろ、私たちが使っている社長、代表取締役、経営者の違いについて考えて見たいと思います。「社長」という肩書きは会社が定める職制に基づく名称です。会社法には社長の設置、選任及び解任、役割・権限・義務等に関する規定はありません。社内で決めれば社長になれます。「代表取締役」とは形式上のものであるため、登記すれば誰でもなれます。

 

「経営者」とは、会社法上の代表取締役であり、労働法上の使用者を指します。しかし、法律上規定されていませんが、「経営者」とは経営の責任者です。「社長や代表取締役」は誰でもなることができますが、「経営者」になることができるかは当人次第です。登記していなくとも、経営に責任を持ち、経営実践している人は「経営者」です。

 

経営者になるには、「経営者の条件」を獲得することが鍵となります。それは、経営指針を確立することです。特に、『経営理念』が必要です。なぜならば、経営者であるならば『何のために経営』するのかの問いに見識・見解を持つことが基本だからです。

 

自分も含め、社員やお客様、世の中の問い・・・『何のために生まれたのか』、『何のために生きるのか』、『何のために働くのか』の問いに見識・見解を持ち、答えるのが経営だからです。

 

皆さんは『経営理念』がありますか?同友会運動で考えると「経営理念」がないと経営していないと同義語になります。

 

私の体験から・・・どのように経営すればよいのか?にあせる人は多くいますが。「何のために経営するのか」に悩む人は少ないです。経営する目的がはっきりしていれば、どのようにでも経営することが出来ます。

 

因みに、「事業家」という言葉がありますが、「事業家」とは事業を回し発展させる人のことを言い、「経営」を行う主体者ではないと考えることができます。

 

同友会に入会して、経営指針を確立しない会員は、同友会の価値を獲得していません。残念であり、経営の問題の本質はいつまでたっても解決しません。時間は有限です。経営者になるための第一歩として経営指針を確立しましょう。

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