鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2005年度 バックナンバー

VOL.18

耐震強度偽装事件やライブドア事件、等々で“経営者の条件”を考えさせられる昨今。新春講演会と全研のまとめの協議を行なった幹事会の席でK会員が「良い経営者になるには、良い人間になること。良い人間とは、人に役立つことを本心から思い実行することだと感じています。あらためて、自己研鑽に励みます。」と決意を述べられた。

 

「企業は人なり」とは、よく聞く言葉です。ここでいう人とは、経営者を示しているのは周知の通りです。同友会では、「良い経営者」を次のように定義づけています。「“企業は人なり”と言われますように経営者の器の大きさが企業の中味と将来を決めるカギです。常に経営者として人間的成長をめざし、自分自身に磨きをかけていく、そのために謙虚に学び合い・高まり合い・総合的な能力を身につけていこうと呼びかけています。」

 

創業時または引き継いだ時、“心と身が引き締まり自己変革を誓った”経営者は多いはずです。しかし、経験を重ねると“自己の教訓”をつくり、自分の見たい“もの”しか見ないのも常です。最近、「もう学びはいいよ。あとは、実践だ。」との声を聞くことがあります。本当にそうなのでしょうか。学びと実践は不離一体のものです。お互い補足し合いながら成果を出す関係にあります。

 

学びたい内容と学ぶべき内容を同時に、実践するのが経営者の学びです。そこのとろを勘違いしないことが肝要です。経営者である限り常に自己変革は続くのです。

 

VOL.17

先日、第36回中小企業問題全国研究集会事前報告会がありました。報告者の田中正志会員・義農みそ(株)社長は「経営理念の確立と浸透が私と自社を変革した」と語りました。

 

そもそも経営指針確立の運動は、1975年に発表された中同協の「労使関係の見解」に源泉があります。不慣れな労使関係の苦難の中で、日本の中小企業家としての役割を自負し、経営者としての責任を明確にしながら、社員をパートナーとして位置づけ、求人や社員教育活動など企業の社会的責任を遂行する上で経営指針確立が重要なのです。

 

今、産業構造の変化の中で、大変厳しい時代なだけに、地域社会からアテにされ、頼られる企業として、社会的責任と存在価値を意識すれば当然のこととして経営指針の確立が求められます。

 

企業の誕生にはそれぞれ経過があったにしろ、地域社会に認知されなければ存在は許されない時代です。

 

『何のために経営をするのか』『わが社の存在価値は何か』『どういう会社にしたいのか』など経営者自身の経営にかける志、経営哲学をどれだけ社員や顧客が納得し、共感するかが問い直すべき課題です。

 

作成過程ではどれだけ社員全体のものにしていけるか、絶えず指針を基本に点検し、幹部と話し合えるか。そして次年度計画に進化できるかが鍵です。

 

本業に徹し、当たり前を確実にやることで、言い訳をせず、成功や失敗の『なぜ』を愚直なまでに追求し、先行管理で目標達成の道筋を明確にすることが経営者の重要な責務です。

 

VOL.16

今年の“干支(えと)”は丙戌(ひのえいぬ)です。丙戌の年は、長年の努力が実り、従来目ざしてきた事柄が成就に近づく「希望の持てる年」となるといわれています。先人達はこの丙戌の年には、「希望」を実現する観点から、従来の考え方や方法、組織・体制などを思い切って見直すと同時に、風通しを良くして、更なる成長発展の基礎を築く年としています。

 

昨年を振り返って“愛媛同友会の元気な会員企業”には三つの共通点があります。それは、学ぶことに熱心。変革することに熱心。実践することに熱心。ということです。今年も希望を実現する企業がたくさん出ることを望みます。今年設立21年を迎えた愛媛同友会も第四次中期ビジョンの初年に当たり、第二創業の年にしたいものです。20年間培ってきた教訓をふまえ、変革の視点で同友会活動を見直し、点検することが肝要だと思います。

 

フランスの詩人ルイ・アラゴンは、かつて「学ぶとは、誠実を胸に刻むこと。教えるとは、希望を共に語りあうこと」と希望という意味をこの詩の一節に託しました。私たちも“目的実現と目標達成”に向けて連帯の精神を今年も発揮しましょう。

 

VOL.15

さわやかで心の温もりに包まれた結婚式に参列した。式場に向かうバスの中で、武田正晴氏(恭栄自動車株式会社)と奥様が前夜、袋詰めをしたお菓子が参列者に配られた。そのことに、心打たれた。それが武田正晴氏の家族と共に日常生活で育んだものであることは、式場での最後の武田正晴氏のあいさつに示されていた。

 

「働くことを通して、共に学び合い、共に育ち合い、一人の人間として高めあう関係を二人で築きあってください。そういう家族には、周りが応援してくれます。」と語っていた。

 

武田正晴氏は、愛媛同友会設立早々に入会し、会活動に熱心に取り組んでいるひとりである。特に、1994年から始まった中学生を迎え入れての『職場体験学習』では先駆的な役割を果たしてきたと同時に、社員と取り組む真摯な姿勢は、中学生や先生からの信頼も篤い。中学校では、先輩から後輩に職場体験の経験を引継ぎしているとの事。武田正晴氏の企業は十一年間連続で中学生を受け入れている。まさに、彼らの検証に耐えている証明でもあり、学ぶ点が多いと感じた。

 

若い二人が旅立った翌日。帰りのバスの中、秋空が映し出される瀬戸内海を観て、一瞬、時が止まり“瀬戸の花嫁”を想い出した

 

VOL.14

「妻がライバルになったので同友会に入会した。」同友会に一足早く入会した奥様の成長ぶりに危機感を募らせた井浦忠氏(株式会社いうら)の同友会大学での講義中の言葉です。それ以降、二人はパートナーシップを発揮し真のライバルとなり企業と同友会のリーダーとして活躍してきたのは周知の通りです。

 

そもそも、ライバルの語源はリバー(川)から来ているといわれています。“川”は人生に例えられることもあります。川の対岸に向き合っている二人を想像しがちですが。そうではなく、同じ川の中で“川上と川下”に位置する二人を想像してみてください。

 

川には流木や岩が流れてきたりするなど、様々な困難があります。その都度、二人は声をかけ励まし、援け合いながら、目標に向かって人生(川)を歩むのです。目標を共有し援け合う関係を本来、ライバルというのです。

 

会員皆さんのライバルは誰でしょうか。よく考えてみてください。奥様ですか、それとも同友会会員、社員、お客様、はたまた自分自身でしょうか。ライバルがいない方は、この秋の会員増強でつくりましょう。同時に、「あなたが私のライバルだと」言われる存在になろうではありませんか。

 

VOL.13

愛媛同友会創立20周年記念の座談会が同友会会議室で先日行なわれた。(今月発行の月刊誌愛媛ジャーナル誌で特集が組まれました。)出席した三人の会員(井浦忠氏、服部豊正氏、大野栄一氏)は同友会運動と企業経営を車の両輪として歩んでいる愛媛のリーダーである。

 

三人の会員は、この二十年間で企業を劇的に変革して成長させてきた。共通しているのは、苦難の中でも、夢とロマンを忘れず、現状認識を怠らず、真摯に同友会で学び自己と企業の革新に励んできたことである。

 

三人のお話を聞いて、次の一節を思い出した。「わたしは、困難な中で笑える者、苦しみを通して強くなる者、非難されて勇気を出す者を愛する」(アメリカ独立革命に大きな影響を与えたトマス・ペインの言葉である。)

 

20年前、この地に同友会は存在しなかった。当時の先輩たちが苦闘しながらも同友会の基盤を築き、「地域社会と共に歩む企業づくり」を松山、四国中央と広げてきた。

 

そして今日、今治支部設立総会に臨み、この地にも愛媛同友会20年の歴史が継承され、人々の幸せと豊かさを創造する運動が根づくのを願ってやまない。

 

VOL.12

愛媛に住んで20年、戦後60年を迎えた日本の暑い8月15日に初めて愛媛県戦没者追悼式に参列した。戦争の痛ましさ、歴史への責任と生きることの重みを考えた一日となった。

 

お盆の日に、塩野七生の「ローマ人の物語」を読み返す。著者は、イギリスの歴史家ギボンに代表される既成の歴史観である“ローマの衰亡要因を探る”のではなく、“ローマの一千年の存続要因を探る”点に大きな違いを求めている。

 

パクス・アメリカへの反動かイギリスやエジプトでのテロリストによる許せない爆破事件が続く。『ローマは一日にして成らず』の格言を生んだ古代ローマが西欧各国の“歴史の手本”とされたのは、その一千年が危機と克服の連続であったからである。“パスク・ローマ=ローマによる平和”を確立したローマ帝国。崇高と卑劣、英知と愚かさー人間の営みの全てを網羅したローマは、私たちと同じ生身の人間が生きた国でもあった。

 

ドイツの歴史家モムゼンはローマの基礎を築いたカエサルをこう評価している。「他の多くの人には、見えないことまで見ることのできる人ではなく、見えていてもその重要性に気づかない人が多い中で、それに気づいた人なのである。」現代を生きる人間として“存続要因”を考えた暑い夏となった。

 

VOL.11

空梅雨かと思えば豪雨が続いた愛媛の夏。日中うだるような暑さのなかでセミの鳴き声を聴くと日本の夏を実感する。夜の寝苦しさから枕元に置いている本を取り出して読み始めたが、面白くてやめられなかった。近頃、仕事の必要に迫られて新知識のみを追い求めていたが、時には昔の本を再読すれば、年月の経過と共にまた新しい発見や、新鮮な感動を受ける喜びのあることを忘れていた自分に気づく。「良書は枕元に置け」の格言を思い出した。

 

世は情報化社会で新刊本、雑誌、ニュース等が巷に氾濫している。情報化社会に必要な知恵は、本当に有用な情報をひろい出す能力と、情報の洪水に流されない生活態度である。ありあまる情報の山の中で、人は時には立ち止まり熟読吟味し、その知識や知恵を血肉化する時間を失っていないだろうかと自らも反省する。

 

カーネギーの『人を動かす』を読み返す。人間の心理や感情の深さにふれ、人を動かす人間関係の経験の整理は、まことに説得力がある。知識として理解しながら毎日の仕事の中で、おろそかにしている自分が映る。熟読は行動への引き金になるはずである。

 

辻井喬の『深夜の読書』の中で、こんな言葉を見つけた。「いつの時代でも、えらばれるというのは、それだけ多く“困難に耐えよ”と人から負託されることなのだ」“経営者はえらばれた人なのであろうか”とふと思った。

 

VOL.10 『同友会の目指す人材像とは?』

早いものでもう6月です。新入社員にとって入社三ヶ月目を迎えたことになります。職場にも馴染んでできた頃です。「三日、三ヶ月、三年目がヤマ」というように岐路が訪れる時期です。彼らが人材として定着するように引き続き目配り気配りをしていかねばなりません。

 

同友会理念をふまえ第三期同友会大学や第二回ベーシックセミナーがスタートしました。同友会以外でも人材育成をうたった各種セミナーが再び盛んになりつつあります。

 

社外研修も自社の経営理念をふまえた人材育成プランとの連携を考えてよく吟味して選択することが大切です。受講にあたっては「何を学ぶのか」の目的を明確にし、受講後の報告もきちんとさせ、学び放しにしないことが大切です。

 

ところで、企業が求めている経営者・社員も含めての“人間像”とは何か。同友会は長い運動の検証を経て、次の五つを上げています。

 

第一に周囲から信頼され、他人に思いやりがあり、リーダーシップがとれる人。第二に、仕事と人生のかかわりをしっかりと自覚し仕事に中に喜びや生きがいを見出すことができる人。第三に、物事を大局的な立場で本質的に判断でき、自主的・創造的に対応できる人。第四に、心身ともに健康で、私生活を自ら律していける人。第五に、人との触れあいを大切にし、積極的謙虚さをもってたえず成長をとげていく人。

 

ひと言で要約すると「豊かな人間性に裏打ちされた知識と感性の持ち主で健康な心の持ち主」ということになります。

 

VOL.9

車で初めて松山にやって来た日、堀の縁に立って松山城を仰ぎ見た。新緑鮮やかな登山道を中同協の国吉昌晴氏と天守閣に昇った。お城から見る道後平野を一望して二人で同友会運動への夢とロマンを語り合ったことを昨日のように思い出す。

 

以来20年、私は県外から講演に来ていただいた客人をよくお城へご案内する。天守閣から現代の城下を一望しながら、ふと思う事がある。四百年近くの間、松山の人々の“喜怒哀楽”と共に歩んできたこの城は、今、現代に生きている私たちを眺めながら、何を思うのだろうー。昔、城をつくり『まち』の繁栄を支えたのは、歴史に名を残していない商工業者や百姓であった。

 

今、現代に生きる“経済人”が地域経済活性化の担い手として「中小企業憲章」制定という運動をスタートさせる。「中小企業憲章」は、中小企業を軸とした経済政策・戦略をとって日本経済活性化を図ることが目的である。 “中小企業に光を当てるのではなく、中小企業自らが光を放ち『まち』を明るくする存在になる”政策に方向転換させる壮大な運動だ。

 

そういえば、今年待望の支部が出来る。今治にも城がある。先輩の四国中央支部にもお城がある。「宇和島、大洲、と数えて・・・陣屋も含め、愛媛には6つの城がある。愛媛同友会の組織戦略はお城のある支部づくりか?」と指折り数えると“春の眠り”から目が覚めた。

 

VOL.8

「同友会は、まじめだけどむずかしすぎる」「ほどほどの柔軟さがあったほうが魅力的な会になるのに」と言われることがある。まことに同友会はまじめな経営者の集まりであると思う。もちろん経営は、真剣に全知全能を傾注して取り組まなければならない。かといってまじめ一辺倒というのも不自然である。

 

人間が生きてゆくには、心のゆとりと遊び心が必要だ。ちょうど車のハンドルに遊びが必要のように。まじめ一方では、気楽に心を開く余裕を相手に与えない。まじめすぎると心の緊張をたえず求められ、知らず知らず自己規制をしている状況になる。

 

まじめだけでは、心のゆとりが生まれず柔軟で意外性にとみ、独創的な発想も生まれにくい。世間では、大いなる欠点がかえって人間的親しみや魅力となることはよくあることだ。ただし、大切なことはその欠点に人間的親しみを覚え、信頼関係が増すことが大切だということだ。

 

かつて、落語家の故・桂枝雀は「笑いとは緊張と緩和の連続の合間に生まれる」と言った。言い換えれば、“規律に裏づけられた”人間的関係に笑いが生まれるのだろう。豊かな笑いを創造するには、広い感受性と人や物に対する好奇心、そして深い洞察力が必要だ。

 

笑いとは、上品で心温まるしゃれというだけではなく、もっとしたたかで不合理や不条理を笑い飛ばす心のゆとりから生まれるものではないか。自戒もこめて、同友会の会合が笑いにあふれるようになれば良いなあと思う。

 

VOL.7

言葉には、「魔力」がある。ひとつの言葉には、人に意欲や感動を呼ぶことが出来る。反面、言葉を生み出すイメージに幻惑されると何となくわかったつもりになり、言葉の持つ正確な意味や具体的内容を確かめる努力を忘れることがある。

 

「志を高く掲げる」や「理念型経営」が大切であると言われると人は反論の余地なく肯定する。だが、大切なのは言葉の持つ具体的意味と内容なのである。「理念型経営」を経営の中で実践するとは、「労使見解の精神」に裏づけられた働きがいのある職場づくりをすることで、経営指針づくりそして人材の育成、職場環境の向上や時短を含む労働環境の改善、就業規則をはじめとした諸規定の整備など経営者の具体的な実践と経営姿勢が問われなくてはならない。

 

ここでひとつ問題提起をしたい。「実践の徹底」という言葉だ。「あたり前のことをあたり前に行動できる企業」「お客様をいつも大切にする企業」「ひとづくりを理念とする企業」これらを目ざして努力する企業が多ければ、多いほど良い。だが、これらをほかの追随をゆるさぬほどに徹底して実行できる企業は少ない。それを「非凡」という。

 

「お客様を大切にする」はよく言われる言葉だが、世の中には「ニセのお客様主義」にあふれている。お客様の目線で、お客様の立場で日常の仕事を点検する社風の確立は容易ではない。自らに戒めをこめて言うと“リーダーにとって大切なことは、語ることではなく、実践する”ことなのである。

 

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