鎌田哲雄の同友会形成コラム「陶冶(とうや)」

 

2008年度 バックナンバー

VOL.54

ようやく春めいてきた二2月12日と13日に熊本の地で全国研究集会(略称・全研)が開催されました。いつもながら素晴らしい中小企業家の学習の場であることを感じました。

 

私は植田浩史氏(慶応大学経済学部教授)が報告者の「同友会企業のめざす先進性」がテーマの分科会に参加しました。世界経済、日本経済、地域経済、いずれをとっても厳しい今日、「自立的」企業づくりを進めてきた同友会企業の存在意義を確認する内容でした。

 

それは、同友会が時代を客観的に見つめることで、時代を先取りする先進的な企業づくりをどう進めてきたのかということです。その鍵は、中小企業が直面している問題と課題をいち早く認識し、方針化し会員企業が実践してきた歩みそのものでもあります。

 

植田氏は同友会企業の先進性を「【1】社会性の自覚=自社の発展と社会の関係を自覚している【2】人間性の尊重=人と環境に優しい【3】科学性の追求=思い込みや自己満足ではなく科学性を担保【4】真摯さ=自己変革を怠らない」この4点にまとめました。この4点が自社の先進を評価する視点でもあります。

 

最後に植田氏は「これからは、従来の先進性やこれまでの延長線上で考えるのではなく、新たな先進性を考える必要があります。」と結び、中小企業家としての力量が本格的に問われる情勢になってきたことを実感した二日間でした。次回全研の開催地は京都です。

 

VOL.53

今こそ、経営者は変革と創造の姿勢で時代と向き合いたいものです。経営者が変わらなければ、会社は変わらないと同友会では常に言われています。その鍵は『現場』にあります。

 

二か月間で30社近くの会員を訪問しました。設備会社では「受注が止まった」建設会社でも「信用不安がかつてなく広がっている」等々の声を聞きました。一方、家庭紙メーカーⅠ社では「昨年末から重油などの原材料が下がりコスト減になってきた」、食品メーカーH社も「外食が減り、家庭での食事が増えるのでは」との声。危機は悪い面だけではなく自社にとって悪く働く作用と良く働く作用の両面があることを実感しました。

 

特にお客様(市場)の変化には、丁寧かつ機敏に対応したいものです。訪問事例にもお客様からのクレームや困りごとに誠心誠意にこたえることで絶大な信頼を築いている自動車整備会社K社や商品開発のヒントにつながった建材メーカーM社のケースもありました。

 

自社の真のお客様は誰か?絞り込んだ議論を自社でしっかりすること。どこが動き、停滞、後退しているかを科学的に分析することも大切です。

 

現場で何が起きているのか。ミクロの世界に視点を移して、自社をしっかりと見直す時ではないでしょうか?経営者には、鳥の目と虫の目の『複眼』を持つことが求められています。

 

VOL.52

波乱に富んだ2008年から2009年へ。米欧市場の混乱をきっかけに世界中に広がった金融危機。それが景気を冷やし、“世界は百年に一度”あるかないかの経済危機に突入しました。その火の粉をまともにかぶっているのが中小企業です。資金繰りや金融機関の貸し出し態度なども悪化し、信用や需要の収縮が同時に始まっています。

 

しかし、個々の組織を守ることはリーダーの社会的使命です。他に転嫁しても解決になりません。ここは、腹をすえて時代をしっかり認識することが大切。時代転換のスピードに自社が適合しているのか、流れをとらえているのか、絶えず見直さなければなりません。そして変革の手を打つことです。

 

同友会の学び合いはリーダーとしての自己変革への点検の場です。筆者の体験からも自己や組織の改革を怠るとしっぺ返しが来ます。どんなに苦しい時期であっても自らと組織の変革を怠らないことです。

 

そのためには、市場から何を支持され期待されているのか。自社の得意技を磨き、持ち味を強めること。泥沼の価格競争から抜け出し、付加価値重視の経営へと体質転換をはかることです。

 

社内に沈滞やあきらめムードはありませんか。厳しい時代こそ社員はリーダーの明確な方針を求めています。社員と共に科学的な確信に裏づけられた元気で楽しい組織をつくりあげる年としましょう。

 

VOL.51

紅葉の美しさは冬の訪れの前触れを感じさせます。松山市内を東西に走る平和通りの銀杏並木も黄金色に輝いています。先日、事務局の近くの、いつも鳩が群れをなしエサをついばむ川沿いあたりで、小鳩を見かけました。

 

群れから少し離れて、おどおどとエサをついばむ様子はいかにも新参者です。体形もひとまわり小さく飛ぶ力も弱そうです。人に飼われていたのが逃げ出したのか、仲間の鳩からはぐれたのか。

 

10月30日仲間づくり運動キックオフ集会を開催しました。今回の仲間づくり運動の重点は厳しい経営環境だからこそ、腹を割ってお互いの経営を率直に語り合い、理解し合い、そして援け合う集団をつくることです。

 

今年の年末は特に厳しい。アメリカ発の金融危機が世界経済を揺さぶっています。金融機関の破たんや整理統合の加速化は金融環境を委縮させ、取引先との信用不安を広げています。政府は「中小企業へのセーフティネットに努力する」といいますが当てにできる規模でも中身でもありません。

 

「頼れるのは自力のみ」が中小企業家の実感です。しかし、「社員を信頼できるパートーナー」と位置づける自主、自力で生き抜く同友会に身を置くことは、孤独で戦う企業家よりもはるかに力強い励ましを得るはずです。同友会の連帯は鳩の群れよりも大きく“ひとりぼっちにさせない”、連帯感を実感できる仲間づくり運動を前進させましょう。

 

VOL.50

食欲の秋、読書の秋、そして同友会の会員にとっては学びと実践そして仲間づくりの秋です。同友会では経営課題を持ち寄り、解決の糸口を見つけようと支部例会を中心に持ち味を活かした学びの場が持たれています。

 

アメリカ発の金融危機が世界経済を揺さぶっています。金融機関の破たんや整理統合のニュースは金融不安を一層駆り立てます。株価も世界的に大きく乱高下し、行き過ぎた市場原理主義の矛盾が一気に噴出してきました。アメリカ一極集中の経済は破綻して次の経済に移る転換期が来たことを予測させます。

 

この間の理事会では各社を取り巻く情勢の傾向と対策について時間をとって学び合っています。各社共通しているのが、“ピンチこそチャンスの姿勢”で臨み、経営戦略やビジネスモデルの転換など日頃手をつけられない課題に積極的に対応する行動です。

 

まさに良い経営者としての証として先見力と行動力が求められていることを実感します。先見力や行動力を磨くには情勢を読むことが必要です。今ほど情勢の変化を機敏に感じ取る能力を要求されることはありません。

 

一か月も経てば情勢がガラリと変わる昨今、経営者は常に新しい発想で経営のかじ取りを行いたいものす。その能力を磨く場所を提供しているのが同友会です。この秋の仲間づくり運動で学びの場である同友会を大きくしましょう。

 

VOL.49

今秋から愛媛大学で愛媛同友会提供講座が昨年に引き続き始まります。今期の提供講座では若者と中小企業の関係を歴史的に、そして原動力として学ぶ内容を『鍵』としています。中小企業の未来を築くのに若者はなくてはならない存在です。しかしワーキングプアが続き、何割かの新卒者は、やむなくフリーターにならざるをえません。中小企業が若者と共に企業を創造できるか、両者が生きる上での『鍵』となる内容です。

 

同友会の目指す企業づくりの『鍵』に「労使見解」があります。労使間の信頼関係を築く第一に経営者が経営責任を果たすことを上げています。企業の理念、方針、計画を明示し、社員と共にその実現に向けて最大限の力を出し合う。その際大切になる『鍵』は、労使双方の「わかりあう」努力です。経営者としては、個々の社員に応じて経営指針や仕事の本質を理解してもらう教育が必要です。社員も自覚的に向上心を高める姿勢で経営指針の理解につとめてほしいものです。

 

それにしても人間社会とは「わかりあう」ことの何と難しいことか。夫婦、親子はもちろん、宗教、人種、言語、習慣等々の「違い」が亀裂を生みます。「わかりあえない」究極の悲劇がテロ、戦争でしょう。『違い』があってこそ人間。「わかりあう」努力をまず身近なところから習慣化したいと思います。

 

VOL.48

あの感動と寝不足が続いた夏の北京オリンピックも終わりました。北京では経営環境の厳しさの欝憤を晴らしてくれるかのような世界各国の選手の活躍がありました。

 

スポーツも経営も、常に常勝というわけにはいきません。長い苦難の時期をいかに体質強化に努めるかが、次にくるチャンスを生かす秘訣でしょう。今回のオリンピックで見せた世界各国の選手の強さとしなやかさは、それを支えるスタッフが一丸となってチームとしてバックアップしたことが大きな持ち味ではなかったでしょうか。そしてもう一つは、目標に向かって、必ず勝つという強い意志。

 

同友会で常に言われている「リーダーは理念を掲げ、目標を明確にして労使一体となって経営を行う」に合致するわけです。経営者は、自ら立てた目標は必ず達成して見せるという強い意志を持つことが、社員の心をひとつにして、強くてしなやかな組織に変えていくのでしょう。

 

一方、リーダーの心に、相手のミスも許すから自分のミスも許して、という弱い心が起きた時、組織のほころびかが出てきます。リーダーたるもの、常に自ら律することを心しなくてはならない。知っていること、できること、やっていることの間に大きな違いがあることを、自問した今年の夏でした。

 

VOL.47

昨年度から愛媛同友会では、会活動の活性化を目指して『仲間づくり運動』を展開しています。その過程で、会活動が活性化するためには例会におけるグループ討論の役割が重要であることを再確認してきました。

 

一方、「グループ討論におけるグループ長の果たすべき役割」と「社内の会議における議長の果たすべき役割」が、ほとんど同じであることが見えてきました。

 

今年度に入り全支部の例会でグループ討論研修会の報告者を務めた小林克己さん(大阪同友会)はグループ長の役割として『テーマに対する深い理解が必要であり、参加者の発言から問題意識の違いも汲みとらねばなりません』同時に、『【1】聴く姿勢と忍耐【2】聞き分ける理解力【3】感じ取るセンス【4】論点を選ぶ決断力』が必要と話しています。

 

『グループ長とは、しきる・ふる・まわすを適当に務めればよいと理解していたが、ずい分奥の深い役であることが理解できた』とは、例会終了後の会員の弁です。本質(論点)論議へと発展させていくことの難しさが分かったということです。

 

小林さんによると究極のグループ長とは『一言も発言しないグループ長』とのこと。一言も発言しなくても、参加者が生き生きと発言し全員が納得のいく結論を出せる討論が理想の会議だということです。

 

現実には不可能なことかもしれませんが、私たちが目指すべき究極のグループ討論型社内会議の真髄は、ここにあると考えます。今年度は理想のグループ討論を追求しませんか。

 

VOL.46

同友会の先輩たちが築いてきた経営に関する財産はたくさんあります。毎月行われる例会での経営体験の報告が基礎になっていることは言うまでもありません。

 

この中で教訓的な経営実践報告が“心に留まり”評価を受けます。やがて各地同友会で報告を行い、全国行事である全国総会や中小企業問題研究集会(全研)、青年経営者全国交流会(青全交)等々の報告者として他流試合を行います。この繰り返しを通して普遍的な経営哲学が、会員の経営理念づくりの中で活かされ、企業の変革と発展の原動力となっていきます。

 

さて、同友会では全国行事の『報告集』を編集・発行しており、この実践記録は、生きた経営のヒントが凝縮されたものです。この記録集を読めば、いくつもの分科会に参加したことにもなります。

 

しかし『報告集』には、欠けているものがあります。それはグループ討論の醍醐味です。生きた意見や討論を体験するには参加する以外にありません。このことに気がつけば、全国行事への興味や関心が湧きます。

 

7月は埼玉で全国総会、九月は岩手で青全交、来年二月は熊本で全研。11月には、今年初めて開催される「人を生かす経営交流会」が滋賀で開催されます。この他にも、課題別交流会が目白押しです。年に一度は全国行事に参加して“全国の仲間の財産”を学び合うことを合言葉にしましょう。

 

VOL.45

四月の県総会に始まり、5月は各支部総会が花盛りでした。仲間を増やした全ての支部総会は元気に溢れていました。同友会の目的や理念を達成するためには継続した仲間づくりが必要だと改めて実感しました。

 

同友会組織であれ、会員の企業であれ、経営戦略は必要ですが、その戦略を練るとき、常に考えなければならない要素が、組織を構成する『人の数と質』です。そしてもう一つが理念です。経営者の弱点はこのことがバランスよく思考出来ない事にあるのではないかと?筆者の体験からも想像します。

 

経営戦略がソフト面で時代に合わせて変化させるものであるなら、その基盤となるハード面が『社員の数と質』です。その上に経営理念が確立され、経営陣と社員が一枚岩になっていれば強い基礎的組織構造になっているといえます。この基礎的構造をつくることが経営者の一番大切な仕事であり、“同友会の活動で学ぶ真髄”はここにあるのではないかと思います。

 

従って会員になれば、まず経営指針成文化に取り組むことです。そして「共に学び、共に育つ」実践をすることで企業の基礎構造を育むことになります。そのことを実証したのが、杉原竜太会員の実践です。杉原会員は入会直後に経営指針セミナーに参加して経営改革に取り組んでいる実践を先の東温支部総会で報告しました。基礎構造の出来ていないところに、どんなに素晴らしい経営戦略を立てても、それは「砂上の楼閣」でしかありません。

 

VOL.44

昨年度を振り返り会員の経営実践報告に共通している仕事観は、『仕事に精通し、その質を間断なく高める努力こそ仕事の原点であるということであり、一つの分野をどんなに深めても極限はない』といことです。地味な分野で地道な努力が敬遠されがちな時代であるだけに、“社会や人に役立つ”視点や意味づけをしっかり持って、仕事への誠実な取り組みを広げていきたいものです。

 

その一方で、このいわば木を見る眼を磨き、木を育てる力をつけるだけでなく、経営者であれば特に森を見る力、森の変化を考えることが要求される時代になってきています。技術や商品そして経済構造などの変化の間隔が長いときには、木を見る眼を深めるだけでも企業の対応力は持続出来ました。しかし変化が早まると、そのスピードが良い木をも無価値化するようになってきているのも、景況調査報告で読み取れます。

 

経営者には自らの変化を読み取る力と同時に、変化を読み取れる幹部を育てることが要求されています。企業はその組織の中に、“木を見て、育てられる有能な実務家”がそろっていなければ、存在が危うくなります。

 

“学ぶこと、考えること”ができる企業づくりが一層重要になってきたということでもあります。テクニック論だけの学び方では、木を見るだけの落とし穴に陥ることになりかねません。本質をつかめる学び方を身につけることを怠らず、どんな課題についても学ぶ時には、本質からアプローチすることが大切だと思います。

 

VOL.43

同友会の例会では、「学び合う場」を充実させるためにグループ討論を重視しています。報告内容を練り上げることはもちろん重要ですが、グループ討論で議論を深めることが経営課題を明確にし、実践意欲をかりたねます。

 

グループ討論ではグループ長の役割が大きいので、支部幹事会では事前報告会や討論テーマの設定など報告内容の予習をしてのぞむように工夫しています。

 

進行役のグループ長は主として聞き役に回るわけですが、一人ひとりの発言を聞き分ける力と発言への調整力も要求されます。時には自らの経営体験(特に、失敗談を語る事)を織り込み、ユーモアを交えて討論を活発化させる自然体での演出もあっていいものです。

 

大切なことは討論が枝葉の部分やテクニック論に陥らず、常に本質論を進めることです。では、本質論とは何か?愛媛同友会での結論では「何のために経営をしているのか?経営理念の原点に立ち返る」討論にしようということです。そして学んだことをどう実践するかも素直に出し合うことです。貴重な経験として、真鍋明・松山第2支部長はグループ討論終了前に「明日からの実践課題を全員に話してもらう」ことを行っています。

 

グループ長は、しきり役という表面的な進行ではなく、深めるというリーダーシップも要求されます。気負いせず、グループ長を楽しもうという“ゆとり”を持って明るく盛りたてるムードメーカーでもありたいものです。それが、共に学び共に育ち合う経営実践に役立つポイントです。

 

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